勝山健史さんは、19世紀末に創業した勝山織物の5代目。古の名物裂にみた“美しさ”これを現代の物として生み出したい。そんな思いを胸に、30代半ばから家業の物づくりと並行して、自身の思い描く美しい裂作りをはじめられます。
様々な織、そして西陣で手に入る限りの糸を試しますが、思い描く裂には程遠い。むしろ「技を重ねれば重ねるほど、理想からは遠ざかってしまう気さえした。」と勝山さんは仰います。模索と葛藤の日々は10年程続きました。そして“やはり糸が違う。素材(糸)が美しくなければ、美しい裂はできない”そんな思いに辿りつきます。
そんなころイタリア・ミラノで偶然出会った小裂に勝山さんの目が釘付けになります。聞けば日本の志村明と言う人が手掛けたその裂。勝山さんをして「日本一、繭に詳しい人」そう言わしめる志村さんとの出会いでした。志村さんを訪ね口説いた後、養蚕に最も適した土地を求め、長野県・飯田町に絹織制作所を設立します。
蚕の品種はもちろん、塩蔵(えんぞう)と呼ばれる古代中国で行われていた繭の保存方法や製糸方法、さらには桑の品種や農薬を用いない土壌作りまで、志村さんと共に数多くの試行錯誤を重ねました。その全てが勝山さんの思い描く“現代に生きる美しい裂”そしてそれを生み出す“美しい糸”の為のもの。古い技法の復元は目的ではなく、あくまで新しい美を生み出すための手段なのです。

写真でこの美しい艶が伝わるでしょうか…
前置きが大変長くなりましたが、勝山健史さんの綺芙織(きふおり)着尺地です。
艶やかな質感と滑らかなドレープ。一般的な"織物"と言う概念を一新されるその佇まいは、勝山さんの思い描く、"絹本来の美しさ"を感じる仕上がりです。
華美な装飾を省き、極限まで素材(糸)の持つ力を引き出した、シンプルで美しい織物。帯合せ次第で中途半端な染物など圧倒する品格、準礼装としての質感を保っています。
お写真をご覧頂いてもお分かりいただけるかと思いますが、綾織と呼ばれる光沢感のある織組織のため、光の加減、そしてドレープによって生まれる陰影によって、地色が様々に表情を変えていきます。単純な言葉でご説明するのはとても難しいのですが、淡い亜麻色に少し赤みを加えたような何とも言えない良い色です。
きっと私の拙いご説明と写真では、この綺芙織の美しさの半分もお伝えできていないと思います。ぜひお手に取って、この織物の素晴らしさをご覧頂ければ幸いです。お手持ちの帯とのコーディネイトなどお気軽にご相談下さい。
*森田空美さんの著書「灰色光 Ash&Light」に、勝山さんの作品が多数掲載されています。コーディネイト・生地の光沢感のご参考にご覧ください。
勝山健史 綺芙織着尺(塩蔵繭・淡亜麻色)
素材 絹100%
長さ 約12.5m
巾 約39.5cm
納期 寸法確定後約30日*お急ぎの場合はご相談下さい。
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